兄妹と、悪の帝王ダークブレインの運命は以後も度々交わった。
ロアはヒーローの一員として数々の戦いを乗り越え、ダークブレインとも戦った。
エミィはその能力でヒーロー達を助けると同時に、その力ゆえ幾度も悪の者に狙われた。
しかしいかなる動乱の中でも、ロアとエミィの絆は決して揺らぐことはなった。


暗黒のヒーローの物語


何度目の戦いであっただろうか。ロアは他のヒーロー達と共に、時空を越えてダークブレインと戦った。
多くの敵との戦いで先輩のガンダムF91やライダーRX、ウルトラマングレートが倒れていく中、
ロアは1人敵の構えを突破し、ついにダークブレインと対峙したのだ。
異空間のダークブレインは、その姿も記憶も異なってはいたが、邪念はまさしくそのものだった。
「貴様が分かるぞ…貴様は異世界で、別のわしに造られた存在なのだな」
「そうだ。そしてここで、僕とお前の宿命を断ち切ってやる!」
念動力を異世界に伝わる武器・風の弓矢に乗せ、ロアは必殺の一撃を放った。
完全なる復活を遂げていなかったダークブレインは、その一撃を受けてあえなく崩れ落ちた。
「やったのか…!?」
大地に倒れ伏し、スパークする彼を見つめながら、ロアはつぶやいた。
「未来から来た戦士には…わしの力も通用せなんだか。しかしいつの日か、必ず蘇るぞ…!」
その言葉を最後に、ダークブレインは光を放ち、粉々に砕け散った。
その衝撃波で吹き飛ばされそうになるのを何とかこらえながら、ロアは静かに言った。
「これで、僕やエミィの苦しみも終わるんだな…」

だが、異世界から元のコンパチワールドに戻る亜空間の中で、ロアに異変が起きた。
先輩ヒーロー3人の後ろに従って元の世界へ進んでいたその時、ロアの頭にはっきりと声が響いたのだ。
「来い。お前はわしのしもべ。わしに仕え、わしのために戦うのだ」
ロアは気付いていなかった。先ほどの戦いで、ダークブレインの破片を全身に浴びていたことに。
ひとつひとつが邪気を秘めた破片は、ロアの心身に悪の気を送り込み、支配しようとしていたのである。
そして額の水晶「ロア.クリスタル」に付着した破片が自己分裂し、彼の思考回路に入り込む。
ヒーローとしての心は消え、変わって悪の心が瞬時に芽生え、増殖する。
かつてエミィを一時支配したその細胞は、それとは比にならない速度でロアの心を取り込む。
己が変質する違和感すら感じる間もなく、ロアは亜空間から姿を消した。
最後尾にいた彼の失踪に、3人の先輩は気付きもしなかった。


その後しばらく何をしていたのか、ロアは記憶していない。
気がついたとき、彼はダークブレインの封印を解き、彼を復活させていたのだ。
以前より一層不気味さを増した様相で、ダークブレインはロアを凝視し、やがて満足そうに笑った。
「くだらん正義を捨て、我がしもべにふさわしい姿で舞い戻ったか」
赤かったプロテクターは闇を思わせる青みがかった黒に染まり、背には漆黒のマント。
その脳裏には、もはやヒーローであった時の記憶は残っていない。
瞳にはダークブレインを思わせる邪悪な輝きが宿っていた。
「そのぎらつく眼…ヒーローの時にはなかった生気と力に満ちておる。
 戦いに対する本能…欲望のまま生きることこそ、生物の本性ということか。
 本能のまま戦え。そしてその力、わしのために振るうのだ。闇の戦士、ダークロアよ」
「はっ。このダークロア、ダークブレイン様のしもべとして忠誠を尽くします」
もはや正義のヒーローであった時の記憶はない。人であった記憶も。だが、まだ何かがあった。
「ダークブレイン様…申し訳ございませんが、何か私の思考に乱れがあります」
「フフフ、その原因など分かっておる。解消する方法もな。来るがよい、エミィ」
「エミィ…!?」
ダークブレインの声に答えるように、1人のサイボーグ少女が歩み寄ってきた。
少女はロアの前に立つと、にこりと笑みを浮かべた。
「私のこと、分かるかしら?お兄様」
「…ああ、エミィ。そうだ、お前が足りなかった。オレの愛する妹」
ダークロアの前に立つエミィは、黒と紫のプロテクターに身を包み、黒いマントを羽織っていた。
「お前のためにエミィを助け出し、わしの配下になるよう説得しておいた。これで一層力を発揮できよう?」
ダークブレインが言うと、エミィはロアにすり寄ってささやいた。
「お兄様、私を助け出してくださったのは主であるダークブレイン様。主様のお役に立って。
 正義なんて青臭いことを言っているヒーロー達に、圧倒的な力というものを教えてやるのよ」
二人の言葉に、ロアは深くうなずいた。
「ああ。オレはダークロア、ダークブレイン様の忠実なしもべ。
 この世界を暗黒世界に変えるため、主様のため、エミィのために戦おう」


こうしてロアは正義の戦士から、悪の戦士へと生まれ変わった。
ダークブレインの改造によって飛躍的な念動力を手に入れた彼の前に、抵抗できる者はいなかった。
だが、そんな彼に全く懸念がないわけではなかった。行くところ行くところで、罵声が浴びせられた。
―裏切り者!― ―悪魔に魂を売った奴!― ―しょせん力目当てか!―
これらの言葉を聞くたび、悪の戦士であるはずの彼は、自分に妙な違和感を感じた。
「裏切り者だと…? オレが? オレはもともと闇の戦士ではなかったというのか?」
考えるたび、ダークロアは軽い頭痛を覚えた。そのたびに彼を治したのはエミィだった。
「負け犬の遠吠えよ、お兄様。弱者は強者をおとしめようと色々叫ぶもの。
 そんなザコ共など放っておきましょう。お兄様は誰より強い、悪の戦士なのだから…ね?」
甘えるようにささやくエミィの言葉を聞くことで、ダークロアは再び自分を取り戻すことができた。
念動力を使おうとしないエミィに違和感を覚えることもあったが、その言葉だけで十分だった。
こうしてダークロアは、コンパチワールドほぼ全土をダークブレインの支配下に置くことに成功したのだった。


だが、まだダークブレインに抵抗する者がいた。遅れて亜空間から戻ってきたF91ら3人のヒーローである。
いかなる手段を使ったのか知らないが、彼らはダークブレインの居城に潜り込み、玉座の間までの突破に成功したのである。
「お前らだけで突入できたとは思えんな…一体、何をしたのだ?」
「そいつに答える必要はないな。行くぞ、ダークブレイン!」
たんかを切るF91。それに対してダークロアが笑みを浮かべながら前に出た。
「ここまで来たのは褒めてやるが、ここまでだ。オレがお前らを葬ってやる」
そのロアの背を、少女の声が後押しした。
「お兄様、さっさと片付けてしまってね」
「ああ、エミィ」
その少女の姿を見て、ヒーロー達は驚きのあまり凍りついた。
「エミィだと…!」
「まさか、エミィまでがダークブレインの仲間に…」
しかし驚く間もなく、ダークロアが瞬時に動き攻撃を繰り出した。
闇の念動力をまとった彼の攻撃に、3人のヒーローはなす術もなく吹き飛ばされたのである。
予想以上の力に倒れるヒーロー達に、エミィの声が追い討ちとなる。
「その調子よっ、お兄様!ヒーロー達を倒すのよ!アハハハハ!!」
その声がダークロアの力となり、ヒーローの希望を奪う。見る間にヒーローは防戦一方となり、追い詰められていく。
ほどなくダークロアの前に、3人はボロボロになって倒れた。
「もろいな…とどめをさしてやる」
そうしてロアが手を振り上げた瞬間である。轟音とともに、城全体が揺れ動いた。
「むっ!?」
「な、何なの!?」
戸惑うダークロアとエミィをよそに、異変に気がついたのはダークブレインだった。
「これは…城を覆っていた闇の力が薄まっていく!地下の暗黒炉を破壊されたのか!?」
ダメージにうずくまっていたRXが、にっと笑いながら立ち上がった。
「どうやら、仲間がうまくやってくれたようだな」
ダークロアの足元に倒れ伏していたグレートが不意に起き上がると、ロア・クリスタルに一撃を入れた。
「闇の力を放つ暗黒炉は壊れた。ロア、目を覚ませ!意志の力で水晶内のダーク細胞に打ち勝つんだ」
その言葉に応えるように、ロア・クリスタルから細胞がにじみ出した。
「ぐああっ…!!う…うう、頭が…僕は…」
と、エミィがダークブレインのかたわらから走り出すと、ロアにすがりついた。
「ダメ!お兄様、敵の罠よ!自分を取り戻して!」
ヒーロー達はためらった。愛するエミィの説得では、ロアは確実に闇に戻ってしまう。
かといって、エミィを攻撃するわけにはいかない。その間にも、エミィは説得を続ける。
「お兄様、ダークブレイン様の力になってあげて。私と一緒に、あの方の側にいましょう…」
その言葉に、ロアの瞳に再び邪悪な光がともる。ダーク細胞が再び水晶内に入りこもうとする。
「オ…オレは、ダークブレイン様の、忠実な…」
ダークブレインは満足そうに笑う。
「フフフ…ロアはもう、悪の戦士なのだ」
「違うわっ!ロア兄さんは、正義のヒーローよ!」
突如、澄んだ声が玉座の間に響いた。一同が声のほうを見ると、そこにはエミィがいた。
「エミィが…二人!?」
正義のエミィと、悪のエミィ。容姿こそ似ているが、心と表情は全く違うのが分かる。正義のエミィが叫んだ。
「元の優しい兄さんに戻って!!」
「…エミィ!!」
その声に、ロアから闇の念動力とは違う、透明な青の闘気があふれ出した。
「僕はロア、正義のヒーロー。ダークブレインの戦士じゃないっ!」
青い闘気の中で、黒かった体が、見る間に赤に戻っていく。
「きゃあああっ!ひ、光がぁ…」
その闘気を浴びて、ロアのかたわらにいた悪のエミィは、跡形もなく消滅した。
「あのエミィは偽者だったのか…!ロアを操るための」
「そうだったのか。彼女まで操られたかと思ってひやっとしたぜ」
一気に形勢逆転されたダークブレインに、うろたえの色が見えた。
「エミィ…ここまで潜り込めたのも奴の念動力のせいか!忌まわしい…!!」
光の気を極限まで高めたロアが、ダークブレインをにらみつける。
「ダークブレイン!今度こそ、お前との縁を断ち切ってやる。…くらえっ!!」
闘気によって、ロアの髪が金色に輝く。念動力が一瞬ロアの掌に集まる。

次の瞬間、放たれた闘気によってダークブレインの体は砕け、溶けて大地にこぼれ落ち、影のように平たく無力なものとなった。

「兄さん…ロア兄さん!!よかった…」
エミィがロアの元に駆け寄ると、涙を浮かべながら抱きついた。
「はは、エミィ…本当によかったよ。また平和に暮らそう」
ロアも嬉しそうに目を細めながら、エミィを抱きしめた。ヒーロー達もその光景に微笑み、また感動に涙ぐんだ。
この過酷な運命を強いられた兄にも、ようやく平和な時が訪れるんだな…

その心暖まる光景ゆえに、「影」がうごめいていることに気付いたものはいなかった。
「そうは、いかんぞ…」
大地に伏していた「影」はダークブレインの形を成すと、ロアを飲み込もうとするように覆いかぶさってきた。
ヒーロー達もロアも、不意をつかれて動くことができなかった。
「わしは何度でも蘇る。ロアはわしのものだ…!」
聞こえるか聞こえないかの邪悪なささやきが聞こえた。すぐロアを覆い尽くしてしまうだろう。
だが、エミィの動きは早かった。強い念動力を持つ彼女は、兄より一瞬速く「影」を感じたのかもしれない。
エミィはロアを突き飛ばすと、瞬時に気をまとって「影」に体当たりした。
「これ以上、兄さんを苦しめないで!!」
その一撃に、巨大化していた「影」はもだえ苦しむように揺れ、今度は縮み始めた。
…そのふところに、エミィをしっかりと捕らえたままで。
いくら影とはいえ、一瞬でためた気では「影」を消滅させることはできなかったのだ。
「エミィーっ!!」
手を伸ばすロア。だが、影はロアより早く、エミィを呑み込み、小さくなっていく。
ついに、影は消えた。エミィを呑み込んだままで。
「兄さん、私は大丈夫…きっとどこかで…」
消えてしまう前に、エミィが笑顔とともに残した、最後の言葉だった。
ロアは無言で、その場にひざを付き、長い間顔を上げなかった。


どれだけ経っただろうか。ひざを付いたままのロアの肩を、誰かが叩いた。
「ロア」
共に何度も戦った先輩、ガンダムF91だった。
「エミィなら、みんなで探そうぜ。人数が多ければ、きっと見つかるだろ」
ロアは首を振った。
「僕のせいで、このコンパチワールドが荒廃してしまいました…これ以上、迷惑は」
「バカ言うんじゃない。何度一緒に戦ったと思ってるんだ」
ウルトラマングレートだった。
「他の奴らだって分かってるさ。奴の支配から逃れられたことが、お前の意志を証明してる。
 これからも一緒にやってこうぜ、ロア」
仮面ライダーRXの言葉に、ロアは涙した。
「…ありがとうございます、先輩の皆さん」



暗黒に包まれたまま、エミィはどこまでも落ち続けた。
いや、落ちているのか浮き上がっているのかすら、定かではない。
辺りに何も存在せず、ただ暗黒が広がっているということだけが、彼女には理解できた。
だが、それだけだ。そこには誰もいず、何もなく、物音ひとつ聞こえない。
もしかすると今まであったと思ったことは全て自分の思い込みで、本当は初めから何もなかったのではないか…
彼女はそう思おうとした。そうやって何も考えない方が、この空間にいるのには楽だろうから。
だが、そうでないことも彼女には分かっていた。
彼女がこの空間で「無」に苦しんでいる間、他の者達は安穏とした生活を送っているのだと。
それが今の彼女には、たまらなく苦痛だった。
自分が進んでこの影の中に身を投げ出したのは確かだ。守りたいものがあったから。
しかし、守りたい者以外も自分ひとりを犠牲にし、あとは助けに来る様子もない。
「ヒーロー」と呼ばれる者達。しょせん彼らも、報酬や利害関係で動く存在なのだ。
自分はそのための生贄に過ぎない。許せない…

彼女は気づいていない。暗黒の中で自身の内に「暗黒」を育んでいることを。


どれだけ暗黒の中をさまよっただろうか。数時間かもしれないし、数十年かもしれない。
時間を感じるには、彼女の感覚は暗黒の中で痺れきってしまっていた。
気がつくと彼女は奇妙な場所にいた。暗黒だけが存在しながら、そこには地面があった。
そこにはどこまでもそびえる暗黒の柱があり、空の玉座があった。
何をするでもなくエミィは玉座に歩み寄り、そして座った。

強力な思念が、一度にエミィの元に流れ込んできた。まるで周囲の暗黒が全て流れ込もうとするかのようだった。
「…これは!?」
頭を抱え込むエミィの脳裏に、忘れがたい「あの声」が響き渡った。
「フフフ…お前の心に、影が根付いているのが見えるぞ」
「ち、違うわ!」
エミィは叫ぼうとした。だが、それを否定するだけの理由がないことに、彼女は驚いた。
「うらやみ、妬み、憎しみ…。それらの感情を否定することはない。
 負けを認めぬ心が勝ちたい気持ちを生み、それは進歩をもたらす。お前の心は世界の進歩のために必要なのだ」
「し、進歩…?」
その声の主がどんな意図を持っているのか、エミィには分かりすぎていた。
「違うわ。あなたが言いたいのは…」
『そうね…その通りかも』
不意にエミィの奥深くから、もうひとつの声が聞こえた。
「お前も進化するのだ…世界を進歩させるために、お前の進化も不可欠だ」
『はい。進化するための力を、私に』
「やめて…!機械の身体だけでも苦しいのに、これ以上何をするの!」
しかし、エミィの否定する声はか細く、肯定する内の声は大きかった。エミィから自信が失われていく。
暗闇の中で芽生えた闇は、それほど彼女の意志の中に深く根を下ろしていたのだ。
「わしの言葉を受け入れよ。世界のために、我が力と意思をお前のものにするのだ」
『はい。喜んでお受けいたします』
「…あなたが、正しいのかもしれない。分かりました…」
その言葉を待っていたかのように、周囲の闇がエミィの中に入り込んだ。
「ぐ…ううあ―――っ!!」



エミィは気だるげに目を開け、顔をあげた。
彼女は玉座に座っていた。あたりは薄暗かったが、先ほどの闇は消えていた。
闇が全て彼女の中に入ってしまったのだろうか。その玉座の間に、エミィは見覚えがあった。
「ここは…?」
『かつての、我が居城だ』
はっとエミィは玉座の上を見た。そこには形を成さない黒い影が集まり、漂っていた。
『わしは形なき存在となった。これでは何もできん。
 では、お前は何者だ?お前の主は誰だ?お前の使命は何だ?』
エミィは無言で立ち上がり、鏡のように磨かれた金属製の壁に自分の姿を映した。

そこに映っていたのは、ピンクのプロテクターに身を包んだ少女ではなかった。
ルビーのような紅い瞳には、ダークブレインに似た邪悪な心と魅惑的な輝きが表れている。
暗い赤紫のプロテクターと、露出のある黒いボディスーツは彼女の妖艶(ようえん)さを最大限引き出している。
スマートな戦闘用のボディには赤い模様が浮き出て、悪の雰囲気を高めている。
顔に変わりはないが、青い唇と化粧は少女の雰囲気を大人の妖しいものに変えている。
背にする黒いマントは、彼女に玉座の主としてふさわしい効果を与えている。

しばらく自分の姿に見入った後、彼女はにこりと冷たい笑みを浮かべた。
「わたくしの名は、ダークエミィ。ダークブレイン様の忠実なるしもべですわ。
 わたくしの使命は、コンパチワールドを闇の世界に変え、ダークブレイン様を復活させること…」
影は満足そうに揺れた後、ダークエミィに命じた。
『わしが蘇るには、コンパチワールドが全土が闇の世界になること、そして多くの者がわしの復活を願うことが必要だ。
 ダークエミィよ、お前にはわしにはない魅力がある。その力で人間どもを魅了し、手の者にせよ。
 ヒーロー共に、今度こそ思い知らせてやるのだ。闇の強さをな』


ダークエミィは城のテラスに出た。主なき城に、彼女以外の姿はもちろんない。
しかしダークブレインに代わる新たな主を迎えたせいか、城の上空には黒雲が立ち込めていた。
ダークブレインの思念をそのまま心身に取り込んだ彼女=ダークエミィは艶然と笑った。
「フフフッ…わたくしの魅力をもってすれば、人間を闇の勢力に取り込むことは難しくないわ。
 きれいごとで世界を縛るヒーロー達は、その倫理観で進歩を押しとどめている。
 そのヒーロー達に、きれい事じゃない世界を教えてあげないと…ね」
『ヒーロー…兄さん…』
彼女の心の中にわずかに残る何かが、悲しみの叫びを挙げた気がした。
しかし、彼女を捕らえているのはダーク細胞ではない。悪の魂と、彼女自身の闇自身なのだ。
心身とも「闇」と「悪」に生まれ変わった彼女を、救う術はあるのか…



そうとも知らず、ヒーロー達は各地を放浪し続ける。
「エミィ…どこにいるんだ」
「焦るな。根気よくやっていこう」
「あー腹減った…メシでも食おうぜ」
「あっ、戦闘員!待てーっ、逃がさん!」
「おいこら!お前ら、何のためあっちこっち旅してると思ってるんだー!」
「ハハハ。まあまあ先輩…」


彼らは知らない。エミィがどこにいるかを。エミィがどうなったかを。
その後、ダークエミィがその魅力と念動力で人間のリーダー的存在・ラクスを味方にし
ダーク化したラクスもそのカリスマ性で人間達を束ねていくのだが…

それはまた別の物語となる。







コミック版と微妙に異なるセリフが、リアルタイムで読んだ身として
より想像を鮮明させてくれます。
エミィの悪に堕ちる経緯が恐ろしさと悲しさが表れています。