エミィが行方不明になってから1年…

 ロアはなじみの先輩ヒーローF91、RX、グレートと共に各地を放浪したものの、未だ足取りはつかめなかった。
何度も諦めそうになるロアを、三人は懸命に励ましながら旅を続けた。
そんな旅の途中、彼ら4人は奇跡のような都市を目にすることになる―――


  アンリミテッド・ストーリー


「ロアお兄ちゃんっ!」
快活な少女の声に、ぼおっとしていたロアは我に帰った。
「ああ…なんだい」
彼の元に走ってきたのは、16歳くらいの短い金髪の少女プルだった。
「ラクス様がお兄ちゃんを呼んでこいってプルに言ったの。来れる?」
「ああ。すぐ行くよ」
「わかった。じゃあ、プル先に行ってるね!」
来たかと思うとすぐに駆け去っていくプルの後姿を見ながら、ロアはまた思いにふけった。
―本当に、なんて平和な街なんだ。あんなつらい過去の子が平和に暮らせるなんて―


かつて遠くから、この都市を臨んだ時のこと。
「ずいぶん立派な城壁だな」都市を取り囲む城壁を見ながらF91が言った。
「とりあえず寄っていこう。食料も少ないし、ゆっくり休みたい」RXが言った。
「しかし、こんないかつい城壁で入れてくれるかな。あっさり断られるかもしれないぜ?」グレートが言った。
「とりあえず、門まで行ってみましょう」ロアが言った。

巨大な城門の前まで来て、4人は驚いた。
ザクとバルタン星人とジムが一緒に門番をやっているのだ。しかも冗談など飛ばしており、仲はすこぶる良さそうである。
「な、なんだありゃ?」「ヒーローと悪…ですよね?」「どうなってんだ?」
門の脇の小さな扉が開き、何人かが出てきた。どうやら交代の時間らしい。
「ん?」F91が言った。「このレーダー反応、ゴジラじゃないか?」
その言葉に、視力に優れたグレートと聴力に優れたRXが反応する。やや時間を置いて、彼らは言った。
「あ、確かにいるぜ。間違いない」「ああ。このでかい足音はあいつだ」
かつての古馴染みがいるなら問題はないだろう。4人は門に向かって急いだ。ゴジラが気付くのは早かった。
「おっ!誰かと思ったらロアじゃねえか。それに他の奴らも息災そうだなあ」
相変わらずの豪快な口ぶりに、4人は思わず笑みをもらした。質問するより早く、ゴジラが言った。
「お前ら、俺が何でここで門番やってるか不思議だろ?それに、なんで一つ目やカニと一緒にいるのかもな」
「一つ目じゃありません!ジオンは皆こうなんすよ」「だから、カニじゃありませんってば」
彼らの抗議に耳も貸さず、ゴジラは話し続けた。
「ちょいと旅をしてて、この街が気に入ったのさ。街の名は『アークエンジェル』っつうたいそうな名前だ。
 だが、たいそうなのは名前だけじゃねえ。ここの市長さんが、ヒーローと悪って区別を嫌っててな。共存社会とかいうのを考えてんだ」
「共存って…ダークブレインのせいでヒーローと悪は全く違う特性を与えられたんだ。やりたいと思っても…」
グレートの言葉に対し、バルタン星人は首を横に振った。
「私もそう考えていました。しかし、ラクス様の歌は我らの心をも癒してくれたんです」
ザクもうなずいた。
「ラクス様の歌がなけりゃ、俺らはずっと悪党のままだった。感謝してます」
「…てな感じでな、この都市ではヒーロー・悪・人間の区別はねえ。『歌姫』ラクス市長のおかげよ」
目を見張っている4人に、ゴジラはにっと笑った。
「そりゃびびるだろうな。せっかくだからラクス市長に会っていくかい?少なくとも、お前らの旅の助けにはなってくれるさ」


それから一ヶ月。この都市の平和な姿は、4人の傷ついた心身を奥底から癒してくれていた。
戦いに疲れたヒーローや、かつて悪と呼ばれた者、そして彼らの争いに巻き込まれ苦しんだ者。
先ほどのプルも、強化人間…薬品などで念動力を高める実験体にされたという過去を持つ一人だった。
そういった者達が一致団結し、都市のために尽くす光景がここにあった。
「そろそろ、彼女の歌が聞こえてくる頃かな」
ロアが心の中でつぶやいてから程なく、都市中のスピーカーから少女の歌声が流れ始めた。
個性と共生、平和と自由、優しさと強さ、そういったものを歌うその声に、都市のものはうっとりとして聞きほれた。
街に昼の訪れを告げる、ラクスの歌声だった。
ロアも目を閉じて、それに聞き入っていた。―ここにエミィがいたなら―その想いはぬぐえなかったけれど。
歌が止んですぐに、ロアはラクスから呼ばれていることを思い出した。


都市の中央に位置する最も高い建物、アークエンジェル市庁舎。
ロアが市長室に入ると、そこにはラクスと医学者の少女クスハ、そして先輩ヒーローが座っていた。
「ようこそおいでくださいました、ロア」にっこり微笑むラクス。
「ラクスさん、お世話になって感謝の言葉もありません。ですが、僕には」
「見つけなければならない妹がいる。そうでしょう?」
ロアは無言でうなずいた。この理想郷においても、エミィを忘れることはできない。ラクスもそんなロアの心情を察していた。
「この広大なコンパチワールドで、一人の少女を探すのは非常に困難でしょう。
皆様に護衛をおつけしますので、この都市を中心とした四方を探してはどうですか?」
ラクスの提案に、彼らはひざを叩いた。確かに4人固まって探すより、散って探した方が効率がいい。
危険度は増すが、彼らは皆死線を潜り抜けてきている勇者だ。それを考慮しての提案だろう。
「ありがとうございます。ですが、護衛はいりません」
「この理想郷を守る戦士達を連れて行くわけにはいかない。どうかここを守って」
ヒーロー達は口々に言った。
「ありがとうございます、皆さん。では、皆さんの助けになるものを差し上げたいと思います。
クスハ、準備は?」
「はい、できています!」


青い髪の少女クスハに導かれて一同がやって来たのは、市庁舎内の研究室だった。
それなりの広さだが、研究室にいるのは二人の少女だけ。
一人は赤いショートヘアの活発そうな少女、もう一人は黒いツインテールの内気そうな少女。
と、赤いショートヘアの少女がクスハに気付いて声をあげた。
「お帰り、クスハっ!ボクらで例のやつの調整、終わらせといたよ!」
「ありがとう、ユーリィ。テストをするから準備をお願いね」
「任せといて!」
元気満々にガッツポーズをとるユーリィ。一方、クスハはもう一人の少女に声をかけた。
「アヤ、調整が終わった試験体をビーカーに入れて持ってきてくれないかしら?」
「…うん。分かったわ、待っていて…」
アヤと呼ばれた少女は低い声で答えると、そそくさと姿を消した。
やがて彼女が運んできたのは、やや底の深いビーカーに入った金色の透明な液体だった。
クスハはそれを一目見ると、「よかった」というようににっこり微笑んだ。
「よし、クスハのお墨付きも出たしさっそくテストしちゃおう!ボクに任せてね」
そう言うとユーリィは無造作に手をビーカーに突っ込み、液体にひたした。
しばらくするうちに、奇妙な現象が起こった…

青かったユーリィの瞳が、金色に変色し始めたのだ。ビーカーに入っている液体と全く同じ色だった。
それを見て、クスハが声をかけた。
「ユーリィ、瞳の色が変わったわ。そろそろいい頃よね、アヤ?」
「…うん、たぶんね」
にっと笑ってユーリィはビーカーから手を出した。ひじの辺りまでまだ濡れたままだ。
「う〜んと、どうしようかなぁ。あ、そこのガンダムさん!ちょっとこっち来て」
突然呼ばれて、F91は頭をひねりながらユーリィの近くに歩き出た。
「ボクの腕の濡れてる部分、殴ってみて!あ、手加減いらないから」
「…え、俺が!?本気かい?」
当然ながらMSの腕力は人間など比較にならないくらい強力だ。
平常時は自動的に力がセーブされるが、本気で人間を殴れば骨折では済まない。
だが、目の前にいる赤毛の少女はあまりに自信満々だ。しかたない。
F91は手加減を加えながらも、それでも人間にはやや重過ぎる威力の拳でユーリィの腕を打った。
「いてーっ!」
痛めて声を上げたのはF91の方だった。それに対して彼女の腕はびくともしていない。
硬いものをうかつに殴った時の痛みに拳をさすりながら、彼は驚いた目でユーリィの腕を見た。
彼女の腕に付着していた液体が、いつの間にか固体化してプロテクターになっていたのだ。
「へへー、すごいでしょ?今度はちょっと一発、殴らせてくれるかな?手加減するから」
「に、人間の女の子が手加減!?…いや、何でもない。来なよ」
「よーっし、遠慮なく行くよ!」
いちおう腹筋(?)に力を入れていたF91だったが、ユーリィの一撃を受けた途端、彼は前のめりに崩れ落ちた。
「んがっ!い、息(?)が…!!」
「あー、ゴメンゴメン!どんなんだか勝手が分かんなくて。後でボクが修理するから我慢してね!」
メカであるF91に、女の子がこれだけのダメージを与えるとは…ヒーロー達は何がなんだか分からなかった。


F91が腹(?)をさすりながら起き上がると、クスハが説明を始めた。ユーリィが時折口をはさむ。
「これはただの液体ではなくて、『リミテッド』」という新開発の流体金属なんです。
 人間、メカ、超人、怪人の区別なく、能力を高め、引き出すことができる強化物質で、
 しかも装着者の記憶や経験を学習して、どんどん進化していく今までにない物質なんですよ」
「ボクがさっき見せたみたいに、体にかけるだけで力も耐久力も一気に高くなるんだ。
 しかも意思次第で好きなように変形させられるから、武器にも防具にも使えるしね♪」
「リミテッドの用途はそれだけじゃありません。他にも色々な性能のものがあるんです。ね、アヤ?」
急に話を振られたアヤは、うつむきながら低い声で答えた。
「あ、うん…知能を高めるレッドリミテッドや、機械を自動修復するシルバーリミテッド、
 超能力を覚醒させるヴァイオレット(紫)リミテッドとかもあるわ…
 すべて、自己進化機能や任意変形機能を備えてるよ…」
目を見張るヒーロー達。その様子に少し得意そうな顔をしながら、クスハは話を続けた。
「もちろん、全部すぐ使えるわけじゃないんです。まだ開発中の物質だし、自己進化がどんな方向へ行くのか分かりませんし…。
 でも、今お見せしたイエローリミテッドは十分安全です。これを調整して、皆さんにさしあげます」
先ほど殴られた腹をまだ気にしながら、F91が言った。
「すごいな…確かにこんなのがあったら助かるよ。ところで、コレの機能は何なんだい?」
「MSをブチのめすこと♪」
悔しかったのか、F91は気持ちをモロに顔に出した。その様子に、ユーリィはあわてて訂正した。
「ごめんウソ、ウソ!それもあるけど、一番重要なのは疲労しにくくなることなんだ。
 たとえば人間は運動すると『乳酸』って疲労物質が体内に出てやがて動けなくなるんだけど、
 イエローリミテッドを装着してると疲労がどんどん回復して、普通じゃ考えられないくらい
 長い時間動き続けることができるんだよ」
「ただ、皆さんはMSにサイボーグ、ウルトラマンに仮面ライダーと種族がバラバラですので
 リミテッドを調整する必要があるんです。何日か待っていただけますか?」
「もちろん。ありがとう、助かるよ」
「すいません。じゃ、すぐ作業にかかりますね!」
いつの間にかアヤが赤い液体のたっぷり入ったビーカーを持ってきていた。クスハもユーリィもアヤも、すぐに手を浸す。
「あの、クスハ…それは?」
ロアが距離を置きながら、そっと質問する。
「これですか?作業効率を超アップさせるレッドリミテッドですっ!」
クスハが妙にアグレッシブに答える。瞳がリミテッドと同じ赤に変色し、ついでに顔つきも変わっている。
普段は温和で大人しい印象なのに、今はキリッとつり目になり、自信満々120%オーラがほとばしっている。
「な…なんだかいつもとイメージが違うんだけど?」
「そーですか?このリミテッド、頭脳を刺激して医療や機械の技術を向上させるんですけど、
 ついでに判断力と決断力も向上させるんです!治療や改造に迷いは禁物ですもん!ね!?」
「そういうこと!あ、ボクらこう見えても冷静だから!アークエンジェルの科学力は世界一ィィィィィィ!」
「…心配しないで、この二人ハイになってるだけ。皆さん見ててもいいけど、
素人はうっとうしいから…邪魔しないでね…機械いじり、楽しみだなぁうふふふふ」
三者三様に暴走モードとなっている少女たち。青ざめてヒーロー4人はラクスとプルを見た。
「ふふっ、この子達、研究となると本気になって止まらないんです。微笑ましいですね」
「ああいう細かいことはできないけど…プルもがんばるからね!」
さすが度量の広い市長……。ヒーロー達はひきつった笑いで応えるしかなかった。


しかし作業が始まると、三人の表情は真剣そのものだった。
彼女らの巧みな技術と機械の扱いにより、4人用のリミテッド調整はとんとん拍子に進んでいた。
「一般に女性より男性の方が工学を好むと聞いていますが、ここでは違うんですね」
グレートが何気なくラクスにそう言うと、ラクスは少し複雑そうな表情を見せた。
「あの子達の親は、みんな優秀な工学者だったんです。ヒーローと闇の勢力の戦いで命を落としてしまったんですが…
 ああやって技術発展に励むことで、親の心を感じようとしてるのかもしれませんね」
「そうでしたか…」
「あっ、すみません…平和を守ってるあなた方を責めるような言い方をしてしまって」
「いえ。犠牲をできるだけ少なくするのも、俺達の使命ですから」


確かにアークエンジェルの工学室では、女性や子供が多く働いていた。
ずば抜けた技術を持つ少女三人がリミテッドを調整している間、マップなどの機器は彼らが準備していたのだ。
しかし一番大変だったのは、ロアだった。
彼の機器担当はプルツーという少女。闇の勢力によって生み出されたプルのクローンで、
強化人間として戦いに駆り出されていたのをプルと一緒に救出された過去を持つ。
「お前がロアだね。あたしはプルツー。仕事はきっちりとこなしてみせるよ」
姉のプルに比べ、顔つきも性格も雰囲気もプルツーはきつく、大人っぽかった。
だが、プルが遊びだすと作業そっちのけで彼女をしかり始めるのである。
「プル!こら、遊ぶな。わたしの作業までできなくなるだろう!」
「やだよー!あ、プルツーの工具もらっちゃうねー」
「あっ、待てこら!返せ、このっ!」
「あ、あのー、君達…うーん、参ったなあ…」
大人っぽくてもやはり姉妹、性格は似てるのか…


一週間後、彼らは東西南北それぞれの方角へ向けてアークエンジェルを出発した。
足にはイエローリミテッドを付着させ、レーダーと通信機も装備している。
「成分を安定させておいたので、副作用などの心配はありません。
 ただし、効果があるのは20日間前後です。往復分を考えて、10日で戻ってくるようにしてくださいね」
クスハの言葉を耳に、4人は別々の方向へ旅立った。

リミテッドの効果は彼らの予想以上だった。
足が通常とは比べ物にならない高速で動く。彼ら自身が驚くほどに。
それでいながら、疲労は全くたまらない。筋肉や機械に数倍の負担をかけているにも関わらず、何時間でも走り続けていられるのだ。
身体は全く疲れないので、頭がぼおっとしてきたら寝る、そんな日々が続いた。
あとは人がいれば、レーダーに反応があるはずだ。アークエンジェルと交信するための通信機もある。
片道10日というリミットこそあるものの、順調なすべり出しだった。

しかし3日後、ロアだけはアクシデントに見まわれていた。
ロアが不安に思ったとおり、プルツーの不注意とプルの妨害によってメンテナンスが不十分だったのだ。
「あの子達…困ったなあ、まったく」
出発から一週間ほど後、通信機とレーダーの機能が作動しないのにロアは気付いた。
特に、アークエンジェルからの信号を受信する機能がほぼ完全に麻痺しているのである。
「戻るべきかな…いや、もっと進んでみよう」
皮肉なことに、ロアのこの決断がアークエンジェルの運命を決めることになる。


ちょうどその日、クスハは研究室で一人リミテッドの研究を進めていた。
「たった10日じゃきっと何もできない。もっと長期間使えるよう調整しないと…
 私達アークエンジェル研究室の技術力、もっとヒーローの皆さんに納得してもらいたいな」
その時、彼女は誰かが部屋の中にいる気配を感じた…。誰もいなかったはずなのに。
「誰かいるの?」
ふり向くと、マントを羽織り、フードを目深に被った人物が少し離れた場所に立っていた。
「どなた…ですか?何か御用?」
マントの人間はそれに答えず、クスハの近くへと歩み寄ってきた。
クスハは謎の人間に不信感を覚えつつも、何か妙に惹かれるものを感じていた。
「面白い研究をしてる…よければその実験、手伝わせてもらえないかな?」
そう言いながらその人間はフードを下ろした。
「!!」
クスハは自分の眼を疑った………


それから数時間後。各ヒーローの通信機が、緊急信号を受信する。
「ん!?」「緊急信号…アークエンジェルに何かあったのか?」「こりゃ戻らないと」
三人は、急いでアークエンジェルに向けて来た道を戻り始めた。
そう、電波受信をできなかったロアを除いて。


忘れられていた何かが、また動き始めていた。




磯部巻きさん版コンパチヒーロー第三段
コンパチならではの設定を変えてのストーリー展開にドッキドキ
文字通り色々なリミテッドの種類があって面白くなりそうです。