ヒーローと悪の勢力、あるいはヒーロー同士や悪の勢力同士が
絶えず争うコンパチワールドにも、人間は数多く住んでいた。
だが、怪人や怪獣が日常的に幅を利かせるこの世界において
ヒーローほどの身体能力も武器も持ち合わせていない一般人は
少しでも安全な場所に街を作って群れて住まうしかなかったのである。

そして、なんとか豊かさを増してきた街は、また悪の勢力の狙うところとなる…


人の心を持つ機械―誕生の物語


とある場所に、ある程度の規模を成した都市があった。
かつての平和な時代のように商店街があり、住宅街があり、貧民街もあった。
そして貧民街の一角に、青い髪の孤児兄妹がひっそりと生活していた。
兄の名はロア、妹はエミィ。二人とも十代後半の若さで、身寄りはなかった。
だがその境遇でも、二人は微笑みを絶やさずに人として強く生きてきた。
ある出来事が起こるまでは…

平和な街の昼下がりは、一瞬にして恐怖と混乱の叫びに染まった。
怪人と怪獣の連合が白昼堂々、この街を襲撃したのだ。
都市の防衛軍が出動しているものの、ヒーローや正規軍に比べればその戦力はあまりにも心許ない。
彼らの戦闘と怪獣の攻撃によって、都市への被害は大きなものとなっていった。

貧民街も例外ではなかった。流れ弾や明らかな攻撃により、多くの建物が瓦礫となっていた。
「エミィ、こっちへ!急ぐんだ」
「うん、兄さん!」
兄のロアは妹の手を取り、安全と思われる方向へ必死に走った。
「なんてことなの、私達の街が…」
エミィは走りながらも、変わり果てた街の様子に衝撃と悲しみを隠せなかった。
「まるで昔みたい…。あの時も街が壊され、父さんも母さんも姉さんも、みんな…」
過去のことを思い出して思わず涙ぐむエミィ。そんな彼女にロアが言った。
「ボクがいるだろ。大丈夫、エミィは絶対守ってみせるから」
しっかりしたロアの物言いに、エミィは無言でロアの手を握り締めた。

と、二人の先の街角から荒々しい声が聞こえてきた。
「足音がするぞ!人間か」 「匂いもするぜ。とっ捕まえろ!」
二人は肝をつぶして立ち止まった。話しぶりから明らかに怪人や怪獣の類と分かる。
いったん見つかってしまえば、筋力でも五感でもはるかに劣る二人に逃れるすべはない。
ロアは息の音すらもしないように試みながら素早く辺りを見回した。
すぐ近くに、まだ破壊されていない廃ビルがある。考える間もなく二人はそこへ飛び込んだ。
幸い、入ってすぐの場所に多くの瓦礫が積み重なっており、隠れる場所は無数にある。

わずかに遅れて、ザクと戦闘員が入ってきた。彼らは当たりの瓦礫には気も止めず、
まだ残っていた上の階へと登っていった。二人は息を殺して、瓦礫の影に身を潜めていた。
やがて彼らは言い争いをしながらもう一度降りてきた。
「おい、お前のレーダーで居場所分からないのかよ!モビルスーツだろ」
「ミノフスキー粒子がまかれててよく分からないんだよ。お前の鼻はどうした?」
「俺は戦闘員だぞ!犬みたいな仕事は他の妖怪みたいな怪人のやることだ」
人間とたいして変わらない大きさの一匹と一機は、辺りを探りながら口論を激化させていった。
しかし不器用なザクと気の利かない戦闘員では、結局居場所はつかめずじまい。
とうとううんざりしたように出て行った彼らを見て、ロアとエミィは脱出への希望を抱いた。

しかし彼らの望む様にはならなかった。
しびれを切らしたザクが、ハンドグレネードを取り出したのだ。
「出てこねえなら、ちょっと懲らしめてやるか!」
「おお、そいつはいいな。俺にもお前のマシンガン貸してくれよ」
はっとした兄妹が瓦礫の下から出る間もなく、ザクが爆弾を放り投げ、戦闘員が銃を乱射した。
もともと崩れかかっていた廃ビルは、その衝撃でひとたまりもなく崩壊した。
「うわぁーっ!!」 「きゃぁーっ!!」
崩れ落ちたビルの下から聞こえてくる悲鳴を聞いて、一機と一匹はばつの悪そうな顔をした。
「しまった、やりすぎた…どうする?」
「ほっとこうぜ。労働力としての人間くらい他から探せばいいや」

砕け散ったビルの瓦礫の下で、エミィはかすかに意識を取り戻した。死んだと思ったのに、まだ自分は生きている。
その理由は分かっていた。ロアが自分の上に身を投げ出し、盾となったのだ。
「兄さん…!!」
ロアは致命的な傷を負っている。このままでは命も危うい。だが、声をあげたところで助けに来る人間もいないだろう。
自分も重傷を負い、はっきりしない意識の中でエミィは強く願った。
「私はどうなってもいい。どうか、兄さんを助けて…!」
その祈りに応える「神」がいたのか。エミィから不思議な光が放たれ、ロアを照らした…

そのまぶしい光は瓦礫の下から漏れ、地上まで表れ、光の柱として立ち昇った。
街を襲撃した軍団の長は、それを見逃さなかった。彼はかたわらの部下に命じた。
「おい、あの光の出所を探ってこい」
「え?しかし、ヒーローがこの街に迫ってきているとの情報もあります。
 あんな光より、物資を確保する方が先決では…」
「物資など構わん。さっさとしろ。そして出所にあったものは何であれ確保するのだ」
ほどなく、瓦礫の下から兄妹は発見された。意識を失い、重傷を負っていたものの、死んではいなかった。
「しかし、生きていたとはいえ、この傷ではもはや労働力には使えないでしょう。
 人間はもろい存在。修理もメンテナンスも再生もできないのですから」
部下の発言に聞く耳を持たず、軍団長は二人を「ある場所」に運ぶよう支持した。
あれだけの瓦礫の重みを受けて人間が生きていたことの奇妙さに、彼は気付いていたのだ。
予想どおりだとすれば…彼ら二人は、物資などとは比べようもない価値の存在となる。
「まあ、まずは奴らの傷の治療をしてやるか…」彼はにやりと笑った。



ロアは不意に悪夢から目覚めた。恐ろしい夢だった。
夢の中で彼は恐ろしい怪物となり、街を破壊しつくしていた。そしてそれを楽しんでいた。
冗談じゃない。かつて住んでいた街を滅ぼし、エミィを除く家族の命を奪った怪物なんかになるものか。
それにしても、妙に身体が軽い。ビルの下敷きになったような気がしたが、あれも悪夢の一部だったんだろうか。
そして、今見ている天井には見覚えがない。金属製の無機質なつくりだが、どこだろう。
横たわっていたロアは立ち上がり、足を地面に下ろした。

カツン、と硬質の音がした。

床と靴がすれる音ではなく、床と硬いものの当たる音だった。はっとロアは自分の足を見た。
足の大部分は赤と黒のプロテクターのようなもので覆われていた。
それは人のものというより、モビルスーツやロボットのもののようだった。
ロアは鏡のように磨かれた壁に、己の姿を映した。
身体の大部分が機械のようになり、額には奇妙なクリスタルが装着されている。
口元は肌の色と似たマスクで覆われており、口は見えないようになっている。
「これが…僕なのか…!?」
驚く間もなく、部屋の扉が音もなく開き、悪の重鎮MS・キュベレイが入ってきた。
「ほう、目覚めていたか。主様がお待ちかねだ、来い」
目の前に、恐れ逃げていた悪の勢力の手先がいる。
ロアはその恐怖に怯みそうになりながら、次々質問を放った。恐れも疑問には勝てなかった。
「主…だって?それは誰だ?どうして僕はこんな姿になった?そして妹は、エミィはどこだ?」
キュベレイはその質問には答えず、背を向けて言った。
「私についてくれば、全て分かる」


コツ、コツ、コツ…と硬質の足音を響かせ、キュベレイとロアはある一室に入った。
部屋の中には玉座があり、そこにはいかにも「悪」といった奇妙な容貌の者が座っていた。
それが悪の帝王ダークブレインであるということを、一介の市民にすぎなかったロアは知らなかった。
「お前が、ロアか。わしが与えてやった身体の調子はどうだ?」
「この身体だって?一体どういうことだ!なぜ僕をこんな姿にしたんだ」
その言葉に、ダークブレインは言った。
「お前ら兄妹には力があるようなのでな、それを引き出すために手を加えてやったのだ」
「力…!?バカな、僕もエミィもただの人間だ。そんなものがあるはずない」
ダークブレインは憐れむように笑った。彼には表情などないのだが、なぜかロアにはそれが分かった。

「人間の中には、秘められた力を持つものがいる。たとえばありえない腕力を発揮したり、触れずに物を動かす力だ。
 非力な人間に唯一秘められた、恐るべき力だ。わしらはそれを『念動力』と呼んでいる。人間は『超能力』とか呼ぶらしいがな」
「それが、どうした」
「お前は瓦礫をその身に受けておきながら、どうして助かったと思う?危機に瀕してお前の妹が『癒し』の念動力を開花させたからだ」
予想もつかない話に、ロアは困惑した。
「だが、不充分な力だけでは傷を完全に癒すことは出来なかった。お前達二人は放っておかれれば死ぬだけだった」
「…」
「それゆえ、念動力の強化と治療を兼ねてお前達をサイボーグにしたのだ。
 サイボーグとなれば、治療も改造も容易。わしの望むような性能にすぐ引き上げることができるからな。
 わしらには使えぬ念動力の使い手が我が配下となれば、この世界を支配するのはたやすくなる」
にやりと笑うダークブレインに、ロアはきっとなって言った。
「僕にそんな力があるものか。あったとしても、お前なんかに貸す力はない!」
「わしの声を聞き、わしの感情を読み取る。それができることこそ、お前が念動力を持つ証だ」
「何だと…?」
ここでキュベレイらダークブレインの配下がロアを取り囲んだ。恐れに凍りつくロア。
「大人しくこやつらに従って、自室に戻るがいい。お前の念動力はまだ未熟…。
 早速さらなる改造によってその潜在能力と、わしへの忠誠を引き出してやろう。
 大人しくしていれば、それだけ妹に早く再会できることになるぞ。フフフ…」


部屋に戻って、ロアは今までのことを整理しようと考えた。
自分には念動力があり、それ目的でサイボーグに改造されたのだという。恐らく、エミィも。
だが、自分らを救ったダークブレインには明らかに邪悪な目的が見え隠れしている。
奴に手を貸す気はない。しかし、このままでは否応なく彼らの手先にされてしまう。
かつて一市民であった人々が悪のサイドに取り込まれる光景を、ロアも見たことがあった。
こうなったら、エミィを連れてここを脱出しよう。たとえ見つかって殺されても、悪の配下になるよりはマシだ。
そう決意してからほどなくして、ゴッド戦闘員が部下を二人連れてやってきた。扉を開くなり彼は言った。
「これより念動力強化と頭脳支配のために、額の水晶に改造を加える」
圧倒的な力を持つ怪人への恐怖の記憶が、ロアの頭をかすめた。いや、やろう。エミィのために。
「うおあぁぁーっ!」
ロアは不意に飛び掛ると、ゴッド戦闘員の部下に拳を振るった。
ロアの拳が青い光の弧を描いたかと思うと、部下は大きく吹き飛んで壁に激突した。
「あれ…!?意外と、弱いのか?」
予想外の状況に驚いたロアだったが、むしろ好都合だ。続くひと蹴りで、もう1人の部下はその場に沈んだ。
「青い弧…念動力か!?こんなに強力だなんて聞いてないぞ!」
逃げようとする戦闘員だったが、ロアの方がはるかに速かった。ほどなく彼も一撃で失神した。
まさか自分がこんなに強いなんて…戸惑いながらも、ロアはエミィを求めて外に飛び出した。


広い建物だったが、エミィのいる場所はなんとなく感じ取れた。
ロアは自分を発見した敵を確実に仕留めると、その場所へと急いだ。無事でいてくれ、エミィ。
やがてその部屋の前に来ると、閉じた扉の中から声が聞こえた。
「なんて強い精神力だ。俺達じゃ手に負えないな」
「最低限の応急処置は済ませたけど…ダークブレイン様自ら手を下すしかないんじゃないか」
ロアの心は激しい怒りに燃え上がった。彼はその青く光る拳を扉に打ち込んだ。一発、二発。
三発目と共に扉は大きく破れ、次の瞬間に中にいた怪人たちは残らず倒されていた。
「エミィ!!」 ロアは台の上に横たわっている少女に呼びかけた。
「う…ううっ…」
目を閉じてそこに横になっていたのは、やはりエミィだった。
ロアより人間に近い姿ではあるが、その身はすでに機械化されており、手足にはピンクのプロテクターが装着されていた。
そして額にも、ロアのものと似たクリスタルが輝いている。彼女は目を開くと、ロアを不安そうに見た。
「あなたは…!?」そこまで言って、彼女ははっと気づいた。
「兄さん…兄さんね!変わってしまってるけど、分かるわ」
「エミィ!無事でよかった…!」
兄妹はしっかりと互いを抱き締めた。
だが、このままゆっくりしているわけにいかないことは二人とも知っていた。
「急いで逃げよう。大丈夫だ、今度こそ僕が守ってやるから。何もされてないね?」
「大丈夫。サイボーグにはされたけど…あと、水晶に少し何かされたみたい。でも、平気よ」


ロアにとって脱出口を見つけるのは、エミィを見つける以上の大難事だった。
だが、エミィは不思議な力で脱出口に通じる道を的確に発見していった。これが彼女の念動力だろうか。
時折ばったりと出くわす怪人をロアが一撃で気絶させ、二人はどんどん出口に近づいていった。

「ここが脱出口か…。裏口ってところかな」 鉄の扉の前でロアが言った。
彼が手刀を放つと、早くも扉にはひと1人の通れるような穴が開いた。
「さあ、ようやく自由になれるよ、エミィ。 …エミィ?」
エミィはロアの呼びかけに応えず、軽く頭を抑えてうなだれていた。まるでロアの声が聞こえていないようだった。
「何なの…誰かの声が聞こえる。誰…?」
「誰もいないよ。サイボーグにされたから、変なことがあっても不思議じゃ…」
「ああ…また聞こえる。そう、この声は…あの…」
エミィはぶつぶつとつぶやきながら、その場に立ち尽くしている。ロアは彼女の手を引いた。
「行こう。急がないと見つかる。追っ手が来るよ!」
手をぐいと引かれた瞬間、エミィは小さい声で、しかしはっきりと言った。
「行かせないわ」
その瞬間、エミィの体から一瞬、黒い光が放たれた。

全身に電流のような激痛が走り、ロアはその場に崩れ落ちた。エミィはそんな彼を冷ややかに見下ろしていた。
「…エミィ。君がやったのか?一体、どうして!」
エミィの瞳はいつもの澄んだクリアブルーではなく、空ろな赤に変わっていた。
「わたくし達はここから出てはいけないわ…。どうせ出ても、苦しい生活に戻るだけ。それよりも、
 念動力者としてダークブレイン様のために働いた方がわたくし達のためだし、有益よ」
エミィの言葉にも表情にも、感情がこもっていない。何者かに「言わされている」かのようだ。
ロアはなんとか立ち上がると、はっきりとエミィに言った。
「ダークブレインに手を貸したら、父さん達のような犠牲者がまた増えることになる。
 エミィ、君が行かせないと言うなら…力づくでもやってやる」
「あの方が世界を支配すれば、そんなことはもう起こらないのに…愚かね。
 行かせないわ、お兄様…。ここから、行かせてはいけない…」
エミィが手をかざしたとたん、ロアは重力が一気に数倍になったように感じ、倒れた。
「念動力で、空気圧を一気に数倍にしたの…つぶれそうな感じでしょう?
 お兄様は念動力を戦闘に活かすタイプだから、普通じゃ耐え切れない気圧にも耐えられるみたいだけど」
淡々とした口調で話すエミィ。
「わたくしはお兄様ほど戦闘向きではないけど、念動力の能力はお兄様以上のようね…。
 どうかしら…一緒に、ダークブレイン様のもとへ帰らないかしら…?」
「お断りだ」
その言葉を放った瞬間、重さがさらに膨れ上がった。足元の金属製の床がひしゃげ、砕け始める。
「ヒーロー気取り…? これだから、男の人と、正義ってバカね…。知らない。死んじゃえ」

全身が圧縮されるような苦痛の中で、ロアは必死に考えた。
エミィの豹変には何か理由があるはず。出口に近づいた時、何らかのスイッチが入ったに違いない。
そのスイッチが、あるいは「鍵」が見つかれば、彼女は元に戻るはず。改造は未完なのだから。
その時、ゴッド戦闘員の言葉が急に思い出された。

―精神支配と念動力強化のために、額の水晶を改造する―

今にも意識を失いそうな中で、ロアは精神を集中し、一気に解き放った。
青い光がほとばしり、不意をつかれたエミィに一瞬の隙が生まれた。空気の圧縮が止んだ。
その瞬間ロアは足元の金属片を拾い、エミィの額めがけて投げつけた。それがエミィの水晶をかすめた。
エミィはびくっと身体を震わせると、頭を抱えてその場にうずくまった。
「う、うああっ…わ、私、いったい…くっ、わたくしが、こんなことで…
 ち、違う…!こんな、こんなのは私じゃない…お兄様を、止め…助けて、兄さん…!」
どうなっているのか分からないまま、ロアはエミィを抱えあげて外へと走った。
外に出てからエミィは一層半狂乱になって暴れたものの、ロアを手こずらせるほどではなかった。
ダークブレインの基地から一刻も早く離れるべく、ロアは全力で走った。
今の彼は怪人も怪獣も、MSも追いつけないほどの速さだった。

ある程度走ったところにあった岩場に隠れ、ロアはエミィの具合を伺った。
彼女は意識を失っている。額のクリスタルには見えるか見えないか程度の傷がついていた。
その傷の下に、奇妙な部品が組み込まれているのが見えた。金属片はそれをも傷つけていたのだ。
「…これか」
ロアはクリスタルの覆いを外すと、機械の精密な指でその違和感のある部品を取り出した。
触れた瞬間、ぞっとするような感覚が伝わってきたが、機械の手にそのような感触はあるものなのだろうか?
それとも、彼の念動力が、その部品に込められた思念を読み取ったのだろうか?ロアはすぐさまそれを踏み砕いた。
それからしばらくして、エミィが目を覚ました。かすかに開かれたその眼は、もとのクリアブルーだった。
「兄さん…ここはどこ?」
「ダークブレインの基地からある程度離れた所だよ、そう遠くはないけど。戻りたいか?」
エミィは忌まわしそうに首を横に振った。
「人じゃなくなって、機械の身体にされただけで十分。もう戻りたくないわ」
「そうか、よかった」
先ほどのことを覚えていないなら話すまいと思っていたロアだったが、彼女ははっきりと覚えていた。
「ごめんね、兄さん…助けてくれようとしたのに、兄さんを傷つけてしまって」
「大丈夫だって。僕は強いからね」
冗談めかしてロアは言ったが、エミィは笑うどころではなかった。
「あの時…頭の中にダークブレインの声が聞こえてきたの。『ここから出るな、逃げる者も逃がすな』って。
 なぜだか分からないけど、あの時の私、それに従うのが嬉しかった。力を振るうのが楽しくてしょうがなかった。
 組み込まれた部品のせいとはいえ、あんな風になってしまうなんて…私、自分が怖い」
「違うよ。そういう心は人間ならみんな持ってるものさ。いや、もしかしたらヒーローもそうかもしれない。
 自分が悪に転じないように、日々自分と戦ってる…そういうものなんだと思うよ」


しばしの沈黙の後、エミィが言った。
「兄さん、これからどうしよう?」
ロアが静かに答えた。
「僕らのこの力…大きすぎる、恐ろしい力だ。でも、使いようによっては人々を守るために使えるかもしれない。
 ダークブレインに与えられた体だけど、もしできるなら、偉大なヒーロー達の一員として戦いたい」
「きっとなれるわ、兄さんなら。それまで私、ずっと兄さんを助けるから」
「ありがとう、エミィ。じゃあ、エミィを守るのは僕の役目だ。
 さあ、そろそろ行こう。ゆっくりしすぎた。ダークブレインの追っ手に見つかる前に、できるだけ遠くへ」


人間の兄妹は、こうして機械の体と人間の心を持つ戦士になった。
彼らがヒーロー達と出会い、ついにその一員に加わるのは、これから少し先のことである…




 超 シ リ ア ス だ!!
自分ののんきな世界観と違って、ハードな世界です。
そうですよね、わざわざダークブレインが改造を施すんですから
それ相応の理由があるはずですよね。
バンプレ作品で念動力と聞くとSRXチームをついつい連想

磯部巻きさんどうもありがとう御座いました。