「氷川中尉、ただ今戻りました!」

威勢良くG−3ユニットの飛び込んできたのは、対ザンジオー・カミキリキッド戦で重傷を負い入院していた氷川誠本人であった。

「おめでとう、氷川君。」
「おひさしぶりです、氷川さん!」

満面の笑みで迎えてくれるのは、上司の小沢澄子と、同僚の尾室隆弘だった。

「もう、体はいいの?」
「はい、随分休ませてもらいましたから。」
「そ、じゃあ、ビシビシいくわよ!」
「はい!」

冗談めいた小沢の顔と、それを受け取る氷川を見て、尾室はようやくG−3ユニットが復活したという実感がわいてきた。…そして、また影の薄くなるであろう自分をすこしだけ嘆いた。

「…怪人のほうはどうなっているんですか?」

氷川は先ほどまでの笑みをかき消し、真剣そのものであった。

「アナタが入院していた間に特戦隊の装備が急ピッチでそろえられてね、幾分かはマシになったわ。」

氷川が入院していたのは実に一ヶ月。その間に日本はその全精力をつぎ込み新たな装備を開発した。といっても、その数はまだまだ足りるものではなかったが…。

「G−4ユニットに、ZECT、それにエート…たけしとかきよしとかいう市民団体なんていうところも協力してくれてますからね。」

尾室はG−3が出撃できない間、情報収集をメインにやっていたようだ。得意げに言う。

「G−4?小沢さん!」

G−4の名を聞くなり氷川の顔色が変わり、小沢を見る。

「大丈夫よ。アタシだってここでタダくすぶってたわけじゃないわ。G−4の問題点は解消してあるわ。」
「…そうですか。」
「このアタシが言ってるのよ。信用しなさい!」

いうなり小沢は向きを変えた。穿った見方をすれば、ばつ悪げに背を向けたとも取れなくはなかった。

カシュッ
G−3ユニットの扉が開く。

「もう、怪我はいいのか?氷川中尉。」

氷川は声に気づくなり、姿勢をただし、敬礼した。

「ハッ!万全です!正木司令!」
「そうか。それはよかった。…小沢大佐。話がある。いいか?」

氷川の肩をたたき、笑みを浮かべる。その一瞬先には、笑みをかき消し小沢をまっすぐと見る。

「はっ。」

正木は小沢を連れ、部屋から出て行った。

「…何の話っすかね?」
「さぁ。」

もちろん部屋に残された二人には見当もつかなかった。

人払いを済ませた会議室に正木と小沢は入っていった。

「お話というのは?」
「そう、あせるな。まずは座れ。」

と椅子に進める正木。

「…G−4のことですか?」
「あぁ。」
「氷川中尉が復帰したいま、あのようなリスクを負う装備を使う必要はありません。即刻解散させてください。」

水城史郎が装着するG−4ユニットの要、JPS−G4。ザンジオー、カミキリキッドを撃破したアレである。

「…G−4は今のところ問題なく動いている。上層部は解散を良しとしないだろう。」

G−3が大破したため、小沢が開発中のG−4にスポットが当たった。G−4は文字通りG−3の上位機である。しかし、G−4の性能が高すぎるため装着員に負担をかけ、場合によっては生命の危機に至ることから、実戦の使用は不可能とされいてた。
だが、ことは急を要すると上層部からの圧力がかかり、なし崩し的に実戦に投入されたという経緯を持っていた。

「今のG−4は本来の力の30%しか出していないからです。それ以上出力を上げれば装着員の心身を蝕み…やがては…死に至る危険な代物です。それはご存知のはずでしょう?」
「その30%でも十分戦力として合格点を得てしまった。…君の優秀さが裏目に出たな。」

小沢の忠告からG−4は性能を抑え、装着員の負担を軽減、なんとか時間制限付で戦えるような状態である。それでも、怪人を撃破するG−4。
氷川の復帰で穴は埋められると小沢は主張し、G−4ユニットの解散を申し出ていたのであったのだが、どうやら上層部はそれを棄却する構えのようだ。

「…G−4はいずれ命を奪います。それでも使うんですか?」
「ザンジオーに殺された特戦隊員の数、知っているか?」

小沢は熱弁を振るっていた中、正木の一言で急に現実に戻った。

「64人…です。」
「小沢君、酷な言い方かもしれないが…、装着員一人の命ですむなら、少ない犠牲だとは思わないか?」
「…ッッ!!」

小沢は唇を噛み、静かに正木をにらみつけた。
静かすぎる空間で冷たい時間が流れる。

突然のサイレン、怪人出現の報である。

「G−3ユニット、出撃します!」

小沢は身を翻し、走り出した。

「小沢君!!」

正木は手を伸ばし、小沢をつかもうとしたが……途中で手が止まった。

「…少ない犠牲か…。」

伸ばした手を握り締め、じっと見る。

「君らしくないな。」

不意に声をかけられて振り向いた正木。

「!!君は!」

その先には、右腕を組織に奪われた男が立っていた。

Gトレーラーから、ガードチェイサーが放たれる。

「氷川君、敵はその先の採石場にいるわ。別働隊が人気のないところに誘導してくれたの。思う存分暴れてらっしゃい!」
「了解!……でも、小沢さん、このG−3、まえのと少し違いますよね。」

氷川が言うとおり、G−3は頭部の角が伸びていたり、胸部分の装甲が追加されていたりデザインが変更されていた。

「あぁ、この間改修しといたわ。生まれ変わったG−3…その名はG−3Xよ!」
「そういうことは先に言ってください。」
「アナタが聞かなかったんでしょ。」
「そりゃあ…まぁ…。」
「あーもう!男がごちゃごちゃ言わないの!ほら、もう敵を確認できるでしょ?無駄話は終わり!」
「了解…!」

採石場には10数人の特戦隊員と、異形の怪物がいた。

「G−3到着!撤退してください!」
「G−3か!後は任せた!」

特戦隊員は、G−3と入れ替わるように撤退を始める。

「オォーイ!なんだよ、そっちの都合に合わせて場所まで変えてやったのに帰るのかよォー!そりゃ、ないぜェー!」

すると、怪人は徐々に周りの風景に溶け込み姿が見えなくなった。

「俺の名前は…死神カメレオン!意味、わかるよなァー!」

ざしゅっ!!
撤退を始めていた特戦闘隊員の体が裂けた。

「オウうっ!!」

何もないところから血しぶきが巻き上がる。

「やめろ!貴様の相手はこの俺だ!」

G−3Xは血しぶきに向かって突進、闇雲に殴りかかる。

ぶん

「ハッハ!どこ狙ってんだよォ!」

G−3Xの背中から火花が散る。

「くそ!そっちか!」

ぶん!

「この、大間抜けがァ!」

今度は連続で攻撃を食らう。思わず、のけぞり、ひざを突くG−3X。

『氷川君!落ち着きなさい!視覚モニターをサーモに切り替えるわ!』
「了解!」

程なくして、G−3Xの視界が赤の濃淡で示される熱センサーに切り替わる。
すると、赤く縁取られた物体を確認する。

「見つけたぞ!そこだ!」

勢いよく殴りかかるG−3X。

ズバン!!

不意の一撃に、のけぞり姿を現す死神カメレオン。

「やってくれちまって!!」
「オォォォォオオオォォ!!!」

死神カメレオンが体制を取り戻す前に、パンチの嵐をお見舞いするG−3X。

『氷川君、今よ!』
「はいっ!」

G−3Xが脚部から超振動ナイフ『』を取り出し、死神カメレオンに突き刺す。

「ぐ、グゲーッ!!」

ずばぁぁぁっっ!!

死神カメレオンは緑色の血液を撒き散らしながら二つに裂かれた。
そして…

爆発!!

爆炎を背にG−3Xの雄姿が青く輝いた。

 

その雄姿をモニター越しに眺める者がいた。

『ふっふっふ…。あれがG−3…。なるほど、強いな。だが…倒せない相手ではない。覚悟するといい…。』