それはあの運命の日より数日前の事。

「またチャットしてんの?」

彼は部屋の中でお馴染みのメンバーとチャットしている
血の繋がっていない妹に尋ねる。
妹はこちらを向いて小さく笑って答える。

「あっ、お兄ちゃん。うん、皆とやってるんだ」

「何の待ち合わせ?」

「ワンダーモモとフェリシアのバトルミュージカルだよ!
 時間帯もギリギリ間に合うし、皆大丈夫そうだし」

「相変わらずだな、チームカルテットは」

「お兄ちゃんが一匹狼なだ・け!」

元気な妹に対して兄はどちらかというと暗い分類に入る。
すぐにチャットに復帰した妹を見て、
兄は手で隠す事もせず大きな欠伸をする。
自分は誰とも群れようとは思わない、
友達なんて面倒だし、ただ俺は過ごしやすいようにしたい。
それが……“葉山薫”の心情であった。

 

 

カオル
第一話【セレビィ】

 


「んじゃ、行ってきま〜す!!」

「気をつけて行ってこい。だが三途の川には逝くな

「分かってるってば!」

元気に返事して家から出て行く妹に対して、
薫は馬鹿元気だなぁと呟いた。
両親は二人とも共働きで家事は大体妹がやっている。
薫だって何もしていないわけではない、
掃除や洗濯は大体薫の担当で家が綺麗な自信はある。
今日も掃除するか、と思っていたのだが
ふと薫は妹が置いていった漫画に目を向ける。

「xxxHOLiC……。あいつ、ツバサにはまってたんじゃなかったのか?」

まぁ、クロスオーバーだから仕方ないけど。
薫は溜息を付いて漫画を持って元の場所に戻す。
そしてふと時計に目を向けると、只今午前10時32分。
そろそろだな、と薫は呟いた。

ピンポーン

薫が呟いた直後、家のチャイムが鳴った。
やっぱりな、と呟いて薫は家の扉を開くと
そこにいたのはポニーテールが特徴的ないかにも元気印の女の子が立っていた。

「やっほー、かおるん♪」

「今日日曜日で何の記念でもないけど?」

煩いのが来たと薫が呟く中で、
女の子はニコニコ笑いながら言う。

「いや、どっか遊びに行かないかなーって思って」

「アホ?」

「良いじゃないの! ねぇ、行こうよ〜!」

やっぱりアホだな、と考えてしまう薫。
自分が変わり者だというのは感じるけれど、
彼女も自分から見て変わり者の分類に入る。
妹以上に能天気な彼女に対して溜息を付きながら言う。

「何処行くつもりなのさ?」

「あ……」

ほら、やっぱりこれだ。
後先考えない性格でオバケ屋敷に一緒に入った時は大変だった。
そんな昔の事を思い出していたら彼女は今、思いついたように言う。

「ご、ご飯食べに行こうよ!
 唯ちゃん、チームカルテットでバトルミュージカル見に行ってるみたいだし」

「何故知ってる」

「唯ちゃんが事前に連絡してくれたの」

自分の質問に答える彼女にあぁ、やっぱりと思った。
妹である唯は自分と彼女に比べると結構しっかりしていて
チームカルテット内部では財布の紐を握っているのは唯で、
もろお母さんの位置に立っている。
絶対良い男ゲットするだろうと考えていたら
彼女は薫に向かって言う。

「あっ、でも服は着替えてね」

只今の薫の服装:シャツとパンツのみ

「分かってる。緑、マック食ったら買い物付き合え」

薫はそう言うと自分の部屋へと歩いていく。
緑と呼ばれた女の子はとたんに嬉しそうな顔になって
うん!と頷いた。
子供みたいな奴と薫が思ってしまう中で
緑は家の外で壁に背を任せて空を眺めてみる。

「う〜ん、綺麗なお空〜!」

真っ青な空が好きな緑はまたもニコニコ笑う。
雲一つ無く、何のトラブルも無さそうだなぁと考えていたら
シュンッという音と共に自分の目の前に
何かが現れる。

「ビィ♪」

「へ?」

それは大体60cmぐらいしかない身長で、
自然のような緑色を持っていて背中には小さな羽を持っていて
大きな目がニコニコ笑っていて可愛い分類に入る生物。
だが緑はそれに対して目が見開くように驚いていた。
だってそれはポケットモンスターに出てくる「セレビィ」だから。
本来緑はそういうのに詳しくないけれど、ネット情報とかそういうので知っている。
セレビィは緑の様子に不思議そうに首をかしげている中、
緑は……

「……かわいぃ〜!!」

ギュッ

「ビィ!?」

思い切り抱きしめた。
セレビィはその行動に驚く中、
緑はセレビィに顔を向けて色々なところを見る。
手触りはふさふさというより……草、もろ草。
不思議な生き物だなぁ、と暢気に思っていたら
着替えを済ました薫が家から出てきた。

「何、そのぬいぐるみ」

「セレビィだよ!」

「ビィ!」

薫の言葉に対して緑はセレビィを見せて、セレビィは片手を上げる。
いや、何でいるのか聞きたかったんだけど……と呟く薫に
セレビィは緑の腕の中から出てきて近づいてくる。
それに対して薫はセレビィの頭をつかんで言う。

「これ、いくらで売れるかな……」

「ビィ?!」

「わわっ! 売っちゃ駄目!!」

「嘘」

慌てる一人と一匹に対して薫は無表情で一言呟く。
それに対して緑はホッと安心して、
セレビィも緑と同じようにホッと安心している。
こいつ等って案外似てるなと薫が考える中、
ここで本題に入った。

「それで何でセレビィはここにいるんだ?」

「え?」

「ビィ! ビィビィ!!」

緑がマヌケな声を出した後、セレビィは何かを伝えようと言うのだが
生憎と薫と緑の耳はセレビィの鳴き声の意味が分かるほど
進化しておりません。
緑はそれに困惑して、思わず薫に助けを求める。

「……かおるん、どうすればいいと思う?」

「出かけるぞ」

返ってきた答えは思いがけない言葉で、
薫はヘルメットの一つを緑に投げる。
緑は慌ててそれを受け止めて薫の方を見ると
彼もヘルメットを被っていてバイクに乗ろうとしていた。
セレビィがそれに疑問を持ち、不安そうに緑を見る中で
緑はニッコリと笑って答える。

「かおるん、探してくれるんだよ!
 セレビィがどうしてここに来たのかを!!
 かおるん、そうだよね?」

「……うっさい」

緑の言葉に対して薫はそっぽ向いたように言う。
それが照れ隠しなのを緑は知っていて、
ふふと小さく笑う。
その様子が理解出来ないのかセレビィは首を傾げる。
その時薫は二人に向かってやや乱暴気味に怒鳴る。

「早く乗れ! セレビィ、お前は道案内!!
 遅くても唯が帰ってくる時間には帰らせてもらうぞ!!」

「あっ、えと、うん!」

「ビィ!」

緑とセレビィは大急ぎで薫の席の後ろに座ろうとする中、
ふと薫が大きめのリュックを背負っている事に気付く。
緑がこれは何と尋ねると……

「セレビィ入れ」

薫は一言そう答えた。

 

 

「おい、次どっちだ」

運転手である薫は十字交差点で信号待ちしてる中、
リュックの中のセレビィに尋ねる。
セレビィは右方向を元気良く指差した。

「ビィ!」

「えーと、右だって」

薫の位置からはセレビィが見えない為、
緑が薫に教えなければならない。
といってもそんなに困難でもないので、
二人と一匹はそのまま順調に走っていた。
ぐ〜、と緑の腹の虫の音が聞こえてくる中で
緑は自分の腕時計の時刻を見ながら言う。

「にしてももうすぐお昼かぁ……。かれこれ一時間近く走ってるよね」

「あぁ。セレビィも良くこんな道を行けたもんだ」

俺だったらまず無理と薫が呟く中、
セレビィは照れたように後頭部に手を合わせて言う。

「ビィ、ビィ〜」

「日本語喋れ。それと褒めてない」

「え? 言ってる事分かったの?」

「漫画で良くあるパターンだ」

薫のツッコミに対して緑が質問して、
薫はそれに即答した。
その時赤信号が青信号に変わってバイクを発進させる。
セレビィに言われた通り、右へと曲がる。

「うわっ、このままだと渋谷に行くぞ」

「え? あの完全閉鎖都市?」

「そっ」

緑に対して薫が一言で答える中、
セレビィは何かを感じ取ったように前に乗り出す。

「セレビィ、危ないから戻って!」

「ビィ! ビィィ!!」

緑が止めようとする中セレビィは必死で何かを叫ぶ。
薫はそれに何かあると思い、前を見ると
突然目の前に黒いローブに身を包んで
多少尖った金髪を持つ男がテレポートで現れて言う。

『……時の神よ、何故ここにいる……』

彼は驚いているように呟く中、セレビィ唯一人が唾を飲み込んだ。

「言ってる場合かぁー!!」

「ぶれーきぶれーき!」

その男に対して薫はツッコミを入れる中、
緑は大慌てで薫に向かって叫ぶ。
薫は慌ててブレーキを引くけれど
このままでは確実に男を引いてしまう!!

『異界のシギリア……。なるほど、だから貴様は選んだというわけか』

男は避けようともせず、ニヤリと笑う中
セレビィは大きな声を出した。

「ビィィィィィィ!!!!」

その直後、男はその場から消え去る中で
薫達が乗ったバイクもそこから消えてしまう。

 

 

ふと気がつくと薫はポリゴンで出来たようなキューブが
ふわふわと浮いている場所で自分も浮いていた。
地面らしき場所が無く、しかも体が動かず
ただ浮かびに任せていたら己の頭の中に映像がドンドンと見えてきた。

『ノアの箱舟という話を知ってるかい?』

鳥の頭を持ち、手が翼となっている者が尋ねてくる。

『シギリアはまだ残っている。一匹残らず狩るんだ』

炎のたてがみを持つ馬は周りにいる不可思議生命体に命令する。

『滅びて当然よ、人間は。我等ジャガムを道具として扱ったんだもの』

鋭い爪を持った黒色の猫に近い生物はクスクス笑いながら言う。

『コろス……ころスコろスコろスコろスコろスコろス!!!!』

緑色の頭を持つ限り無く人に近い彼女は鬼神のように叫ぶ。

『俺には関係無い。ただ……あいつを待っているだけだ』

額に小判がついた猫は腕を組んで夜空を眺めながら答える。

『あいつ等はそんな箱庭の中じゃねぇと満足に生きられねぇのかよ!』

両手と両足を失った黄色い小さな生物は泣き叫ぶ。

『どうやら今年になっちゃったみたいだね、願い星が目覚めるのは』

桃色の生物は時計と夜空を見ながら呟いた。

『私は、私だけが幸福に暮らしたくないのです』

城の外で、黄色い生物は悲しそうに呟いた。

『何故私はここに存在しているのですか?』

ワッカを頭に浮かべる者は目の前にいる人に向かって尋ねる。

『…………それが、答えか…………』

赤と青の色を持つ奇怪な人は何かを悟ったように呟く。

その映像を見せられていた薫はすぐにある事に気付いて呟く。

「こいつ等、ポケモン……?」

薫がそう呟いた直後、目の前がグルリと回るようになって
意識が消えていくのを感じた。

 

 

そして目が覚めると目の前にいたのは
今にも泣きそうな緑の顔であった。

「……かおるん、起きたー!!」

緑は薫が起きたのを確認すると勢い良く抱きついてきた。
薫はそれに驚きながらも周りを見渡すと
セレビィも泣きそうな顔で自分に抱きついている。
だが……周りは、普通ではなかった。
だから自分が起きただけでこんなに嬉しそうにしていたのかもしれない。

「……森の中、だと?」

そう、ここは森の中だったのだ。
薫は緑に離れてもらうとその場から立ち上がると
近くの木に手を付ける。
幻でも何でもない本物の木で薫は困惑してしまう。

「おい、何で俺達はここにいるんだ?」

「あ、あたしも分からないよ!
 突然こんなトコに飛ばされちゃったんだもん!」

「ビィ……」

緑の言葉の後に聞こえてくるセレビィの鳴き声を聞いて、
薫はセレビィのテレポートだなとすぐに理解した。
自分の知識が間違っていなければセレビィは時渡りポケモンで
時の流れを無視して色々な場所に飛ぶことが出来るポケモン。
もしもここが異世界ならば、異界の壁すらも無視出来るということか。
薫が推理していたら緑はギュッと薫の腕にしがみついてきた。

「どうした?」

「だって怖いんだもん……。
 こんな、こんな意味の分からない場所に飛ばされて……
 だから、だから、今はこうさせてて……」

「……別に構わない」

見るからに怖がっている緑に薫はそっけなく答えた。
昔から怖がりだったよな、と薫が考えている中で
セレビィが何かを感じ取ったのか薫に近づいて言う。

「ビィ! ビィビィ!!」

「……何かやばいのでも来たのか?」

「ビィ!!」

薫の問いにセレビィが力強く頷くと同時に、
ドゴォォォ!!と離れた場所にあった木々が一瞬で吹っ飛ばされた。

「「!!?」」

薫と緑は同時にそちらを向くと、
そこにいたのは髪の毛のような緑の頭を持つ
人間体に近いポケモン……「サーナイト」であった。
だがゲームで感じた優しそうなイメージはなく、
例えるならば「鬼」の二文字が相当似合っていた。
その恐ろしさを本能で感じ取ったのか、
緑は思わず悲鳴を上げてしまう。

「き……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「あっ、馬鹿!!」

その行動を薫は慌てて叱るけれど時既に遅し。
サーナイトは二人に気付くと体を宙に浮かして
とんでもないスピードで二人と一匹に接近する!!

「走るぞ、緑!!」

「う、うん!!」

「ビィ〜!!」

薫は緑の腕をつかむと共に走り出す。
セレビィも慌ててついていく中で、
サーナイトは片手に真っ黒な球体を発生させると発動させる。

「しャドーぼール!!」

サーナイトがそう叫ぶと同時にシャドーボールは発射され、
薫達をしっかりと狙っている。
走って逃げていてもシャドーボールの方が格段に速くて
このままでは直撃してしまうと薫が予想すると
薫は緑の腕をもっとしっかり握ると勢い良く前に向かって投げる。

「きゃぁ!? かおるん、何するの!?」

「逃げろ、緑! こいつは俺がひきつける!!」

「かおるんは!?」

薫の言葉に対して緑が尋ねると、
ギッとサーナイトの方を睨みつけて薫は答える。

「こいつを一発殴ってからだ!!」

それを聞いた緑はセレビィと共に走り出す。
その時、シャドーボールが薫の目の前に来ていて
素早く薫は無駄だと分かっていても顔の前で手をクロスさせる。
そしてついに当たりそうなぐらい近づいてきていたら……!!

スカッ

「へ?」

ゴッ!!

「……あっ、もしかして俺がノーマルタイプって奴?」

さて、読者の皆様には分からないと思うので説明しよう。
薫に向かってシャドーボールがぶつかってきたのだが、
その問題のシャドーボールが薫をすり抜けて
後ろにある木を破壊してしまったのだ。
一瞬それの意味が分からなかったけれど
薫はポケモンのバトル相性について思い出して呟いた。
ノーマルタイプにゴーストの攻撃は聞かない事に対して
薫が安心していると今度は自分の体が浮かび上がった。
しかも首をつかまれて宙に浮かばされているような形でだ。
その時サーナイトが近づいてきて、呟き出す。

「コろス……コろス……コろス」

「ぐ……が……!!」

超能力で首を絞められてしまい、苦しむ薫に対して
サーナイトは己の力を強める。

「ぐっ?!」

それに対して薫はとどめをさされたように両腕をぶらんと落とす。
それを確認したサーナイトは右手に雷を宿らせて、
薫をそのままの体制で自分と同じぐらいの高さへと下ろしていく。

「……コろス……」

そう呟いてサーナイトは一歩下がって“かみなりパンチ”を
薫の顔目掛けて発動しようとしたその時!!

「ぐぉらぁーーー!! 何、わいのショバでアホやってんじゃぁー!!」

突然薫とサーナイトの間に
とんでもなくどでかい“ヨマワル”が現れて怒鳴ってきた。
それに驚いたサーナイトは弾みで雷を消してしまい、
薫への超能力も効力が無くなって薫は地面へと落ちてしまう。

「ゲホッゴホッ……」

「見知らんジャガムはーん、今の内に逃げまっせー!」

何時の間にか本来の大きさに戻ったヨマワルが
軽々と薫を持ち上げてそう言うとかなり早いスピードで飛んでいく。
それをされて我に返った薫はヨマワルに向かって怒鳴る。

「な、何すんだ?!」

「何って、あの女に殺されるよりも早く助けてやっただけや。
 あいつは己の目に入った奴を徹底的に殺すサーナイトやってこと、
 分かってるのになーんで逃げへんかったんや?
 まぁ、すぐに追いつかれるのが目に見えておったけどさぁ……」

ヨマワルの説明に対して薫は驚いた表情をする中、
慌ててヨマワルの背後に誰かいないのかと見てみると
案の定あのサーナイトが血相を変えて体を浮遊させて追いかけてきた。

「コろス……ころスコろスコろスコろスコろスコろス!!!!」

そう叫びながら連続で放っていくのは“10万ボルト”で、
雷は正確にこちらに向かって飛んでいく中
ヨマワルはそれに怯む事も無く前に向かって飛びながら技を発動する。

「“まもる”!」

直後、ヨマワルと薫に青色のバリヤーが張られて
己達に発射された10万ボルト全てがバリヤーに当たり
全て一瞬で消滅した。

「す、すげぇ……」

薫はこの光景に対して驚きと興奮が止まらなかった。
ゲームでは何回も見たポケモンバトルなのだが、
本物はそれすらも霞んで見えるぐらい凄かった。
薫の様子を見て気付いたのか、
ヨマワルは薫に向かって言う。

「おいこら、新種ジャガム!
 ちょっと痛いかも知れんが我慢せぇ!!」

そのヨマワルの言葉に反応した薫は慌てて質問する。

「はぁ!? 今度は何の技をつか、ぐへっ!?」

だが言い終わる事は出来ずに薫は奇声を出してしまう。
何故こうなったかというと答えは簡単だ。
薫は何時の間にかやってきていた車の後ろの席に投げ入れられたからだ。
屋根が無いタイプで多少古めの車で、自分の入れられた席も入れて
小さなポケモンならば全部で4,5人は入る広さだ。
……薫にとってはちょっと狭いが。

「うわっ! マヨさん、この人何スか!?」

「ウェン、早く発進せい! 殺人サーナイトが来るで!!」

運転席に座っているのは少し緑色が濃いキモリで、名前は“ウェン”というらしい。
“マヨ”と呼ばれたヨマワルは助手席に座って怒鳴って言い、
ウェンはウゲッ!と言ってエンジンをかけた。

「おわぁ!!」

急な発進だったせいで、薫はこけそうになりながらも
車のシートに捕まると前にいるマヨとウェンに向かって叫ぶように問う。

「おい、何処に向かうつもりだ?!」

「わい等の本部や! そこまで逃げる!!」

「逃げるって、あのサーナイトはどーすんの?」

マヨの言葉に薫は未だ追ってきているサーナイトを指差しながら問う。
マヨは極々冷静に答えた後、説明もしてくれました。

「撒くしかあらへんやろーが。
 レベルが圧倒的に違うし、向こうはわい等を殺したくてたまらんがってる」

レベルって分かるもんなんだなと今の状況に相応しくない考えを持つ中、
薫はついつい質問してしまう。

「……あんた等、レベルいくつ?」

「俺は39ッス」

「わいは40やで」

「んじゃ、あのサーナイトは?」

「多分80は超えてるやろ」

「倍ぃ?!」

サーナイトのレベルが倍だと分かって薫が声を上げると同時に
車がかなり大きく揺れてしまう。

ドォォォォォン!!!!

「ぎゃぁ?!」

「うわっ、一瞬車体が浮いたッス!!」

「ウェン、運転に集中しとけ! サーナイトの動きはわいが止める!!」

マヨはそう言うと助手席から薫のいる後ろの席に動くと、
追ってきているサーナイトを見る。
さすがに車には追いつけないのか、少し後ろの方にいる。
この距離でも技を放っても大丈夫らしく、
サーナイトは恐らく10万ボルトかシャドーボールを放ったであろう。

「おい、どうするつもりだ?」

「光を出すだけや。念の為にサングラスかけとけ」

マヨはそう言うと薫にサングラスを渡す。
ちょっと大きめだがかけられる事が可能で、
ゴーリキー用かなと関係無い事を考える中
マヨは両手を前に出して叫ぶ。

フラッシュ”!!

直後、とんでもなくまぶしい光がサーナイト目掛けて発射される!
サングラスをかけた薫でさえもその眩しさに思わず目を瞑ってしまう中、
ウェンはマヨが技を発動したのを確認するとアクセルを強く踏んで
その場から撤退する勢いで走っていく。

「助かった! あのサーナイトの特性はトレースやで!!」

「と、トレース?」

「相手と同じ特性になる特性や。
 お前の特性が何かは知らんが……多分わいの浮遊をトレースしたんやろう」

「あっ、なーるほど」

そういえば車に乗る前はあのサーナイトは浮いてたな、と思い出す。
ガタンゴトンと揺れる車の上で薫はサングラスを取ると
マヨに向かって質問する。

「ところでジャガムって何のことだ?」

「は? わい等全ての種族を一纏めにした名称やろうが……」

つまりポケモンはジャガムという名でこの世界では呼ばれているようだ。
自分の事を新種のジャガムと呼んでいる事からして、
人間は存在しないと考えた方がいいかもしれない。
薫はそう推理する中で電話の音が聞こえてきた。

プルルルプルルル、ポチッ

「はいはーい、こちらマヨとウェンでっせー」

マヨの携帯電話の音だったらしく、
携帯電話を取ったマヨは暢気に言う。
その様子からして親しい者らしく薫はホッとする。

「あっ、レオやあらへんか。何の用や?
 へ? ……あんさん、人間は神々の怒りに触れて滅びたやろが。
 はぁぁぁ!!? シギリアに限り無く近い人間保護したやてぇ!?
 ちょっ、待てっ! 人間、こっちにもおるぞ!!
 いやいやいや、マジだってば!! 
 へ? 雄か雌か分かるかって?
 あーっ、わい等にはちょっと分からんなぁ……。
 本人に聞いてみるさかい」

マヨはそう言うと携帯電話から顔を離すと
薫に顔を向けて質問する。

「あんさん、雄?」

「男」

薫は一言で答えた。
だがここで疑問が浮かんでしまう。
何で自分の性別を一発で分からなかったんだ?
人間の存在を知っているならば分かるだろうという考えが思い浮かぶ中、
マヨは電話を再開する。

「雄らしいで、こいつ。
 でも人間はわい等ジャガムやシギリアとはちゃうやろ?
 なのに何でシギリアに近い言うねん、可笑しいやろが。
 ……え? え? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!??
 ち、ちょ、ちょっと待てぇ!!
 何で時と森の神まで一緒にいるんやぁ?!
 マジ!? ほんもん!? デマやあらへんやろな?!
 い、急いで帰るに決まってるやろうが!
 あっ、それと……あのサーナイトに追われてしまいました

『……何をやっとるんだ、お前はぁーーー!!』

マヨの最後の言葉に反応して電話の向こうから大声が聞こえてくる。
それに対して薫は思わず両手で耳を塞ぐ中、
キーンと耳鳴りがしている最大の被害者マヨはふらふらながらも電話を続ける。

「今は撒いてるから心配せんでえぇわ!
 それに人間がやられかけておったから助けてやったんや!
 んで、そっちは何で人間と時と森の神手に入れたんや?
 ……本部に帰ってからにしろってかい!!
 はいはい、分かったから切るで〜」

マヨは会話を終わらせると携帯電話の電源を切って、それをしまう。
その会話を聞いていた薫は、
もしやと思ってマヨに質問する。

「もしかして人間って長い髪を括っている泣き虫な女か?」

「そやけど……何で知ってるんや?」

「……良かった」

薫はマヨの問いに答えず、安心したように呟いた。
その様子を見たマヨは何かを察して
ニヤニヤ笑いながら言う。

「坊ちゃん、もしかして坊ちゃんのマドンナの事心配してたんでっか〜?」

「は、はぁ!? お前、何言ってるんだ!!」

突然の言葉に対して薫は顔を真っ赤にして叫ぶ。
緑はただの幼馴染だと怒鳴る薫に、
マヨは笑顔のまま言う。

「照れんでえぇんやで〜♪
 いやー、向こうも坊ちゃんの事を心配してたらしいで〜。
 これこそ、まさに愛やんけ!!」

力を込めて言うマヨに薫は拳をグーにして殴りかかろうとするが、
スカッと攻撃が外れてしまう。
ゴーストに格闘タイプの技が利かないとはいえ、
これはこれで物凄くムカつく。

「マドンナの……えと、緑ちゃんやっけ?
 坊ちゃんはどんなとこが好きなんや〜?」

その質問に対して薫はまたまた顔を真っ赤にさせる。
そして口を開くと少しずつ少しずつ話していく。

「無駄に明るくて能天気で馬鹿で、でも臆病でどうしようもない奴だけど、
 一緒にいると癒されるというか危なっかしくて見てられないというか
 後先考えないから後で怖くなって泣きまくって俺に迷惑掛けるけど
 そういうとこが可愛くて、何か守ってやりたいって気持ちになるんだよな。
 ………………………………って何を話しているんだ、俺は!!」

「存分に語ってから言う台詞じゃないッスよ?
 ってか思い切り惚気じゃないッスか」

「ナイスツッコミやで、ウェン君」

薫が存分に語ったのを聞いてツッコミを入れるウェンに
座布団上げたいわ〜、と呟くのはマヨ。
穴があったら入りたいというのは正にこの事だと
テンションが思い切り下がってしまった薫。
その時、車は洞窟の中へと向かっていてそれに気付いた薫は問う。

「この中が本部なのか?」

「一時的やけどな。何時までも同じ場所におったら死ぬわい」

「一回居場所がばれて逃げまくった事があったッスよねぇ。
 だから転々と変えなきゃいけないんスよ」

二人(二匹?)の言葉に対して薫はそれ程危ないのかと考えてしまう。
やがて車は止まり薫達は車から降りると、
洞窟の奥に作り出された“秘密基地”へと入り込む。
扉は少し小さかったがしゃがんで入れば何とかなる大きさで、
中は結構広くて人間の体系でも平気な大きさであった。

「あら? 見慣れない子がいるけど、この子が人間?」

その時一同に話しかけてきたのは
椅子に座って己の爪を磨いていたニューラであった。
マヨは逆手ツッコミを彼女に向かってやる。

「それ以外に何があるんや、ボケッ!」

「……あんたが私に向かってボケと言うなんて良い度胸ね。
 あんたはそれぐらい強くなったのかしら?
 もしそうだったら……一回お相手したいわね

ギラギラと爪を見せ付けるニューラに対して、
マヨは数歩下がると地面に己の体を落とすと
正座と思われる体勢になって小声で言う。

「すんません、ほんまにすんません。
 わいが姐さんに勝てるわけございません。
 調子に乗ってしまいました、ほんまに申し訳無いです」

「分かれば宜しい」

どうやらこのニューラにマヨは絶対服従らしく、
その様子に対して薫が苦笑する中で
自分に向かって飛んでくる何かが前方からやってくるのが見えた。

「ん?」

「ビィ〜!」

それはセレビィで勢い良く自分の顔面に抱きついてきた。
薫はそれに驚きながらもセレビィを離すと
今度はちゃんと抱き上げると周りを見渡そうとしたら……。

「かおる〜ん……」

「あっ、緑……って凄い顔だな、お前」

緑の声に反応して顔を向けると薫は一瞬呆気に取られると
驚いたように呟いた。
先ほどまで泣きまくっていたのか涙の跡が残っていて、
声も少し枯れている状態になってしまっている。
その時、緑は勢い良く薫に抱きついてきた。

「どわっとっと……」

「怖かったよ〜!!」

すぐこれだ、と思いながらも薫は空いてる手で緑の頭を撫でる。
その時別の部屋に続くと思われる扉から
体を古いマントで包んだニャースと右目に傷跡を持ったテッカニン、
そして何故か看護婦さんの帽子を被ったヌケニンが出てきた。
ニャースは薫を見ると名前を聞いてきた。

「貴様、名前は?」

「……薫。葉山薫だ。
 言う必要ないと思うがこっちの泣き虫は時岡緑で、緑が名前。
 それであんた等の名前は?」

薫が答えるとニャースが一人ずつ紹介していく。

「俺はレオ。テッカニンはニニ、ヌケニンもニニ。
 ややこしいのでヌケニンは2号って呼ばれている。
 ニューラはメニー、ヨマワルはマヨ、キモリはウェン。
 メンバーは今のところこれだけだ。
 さて、もう一つ質問に答えてもらおうか」

レオと名乗ったニャースは薫達を見ながら言う。
薫は緑とセレビィを力を強めて抱きしめる中、
レオは質問する。

「滅びた筈の人間が何故ここにいる。
 しかも片方はシギリアに近い力を持っている。
 ……それに時と森の神と呼ばれたセレビィ、
 何故神と一緒にいるんだ?
 正直に答えなければ、痛い目では済まさんぞ」

 

 


次回【盗賊団】

 

 


後書き


薫「あんた、馬鹿?」
作者「初っ端からそれかい!!」
薫「だって二ついっぺんに連載するんだよ? 馬鹿以外の何者でもないじゃん」
作者「うっせぇ、かおるん!!」
薫「何かあんたに言われると相当ムカつく」
緑「かおるん、そんな事言っちゃ駄目だよ!」
薫「……」
作者「ひ〜ひっひ、幼馴染には弱いかおるんですな〜」

ドゲシッ

薫「悪かったな、幼馴染に弱くて」
作者「け、蹴るな〜……」
緑「うわぁ、壁にめりこんじゃってるよ」
作者「あー、いででで……。あっ、キャラ紹介入りま〜す」


葉山薫(カオル・ハヤマ)
今作の主人公でありナムカプ主人公の一人である唯の兄貴(高校一年生)。
群れるのがあまり好きじゃなくてやる気無さそうに見え、
中々性格がつかみにくくて友達が少ない。
幼馴染である緑をうっとうしいと思いながらも大切だから守ると決めている。
運動神経は普通で、鍛えれば何とかなるタイプ。
外見的特長は少し巻き毛が入った茶色い短髪で
黒いジャンバーを羽織っていてその下に紺色の服とジーンズを着ている。
「……安心しろよ。俺は、ここにいる」


時岡緑(リョク・トキオカ)
今作のヒロインであり薫を「かおるん」って呼んでいる幼馴染。
明るく元気で物を考えるのが苦手、後先考えない性格で
怖い物にはトコトンびびる泣き虫な女の子。
どういうわけかセレビィと接触出来たのだが、
何故セレビィが緑の前に現れたのかその理由は不明。
外見的特長は赤茶色の髪をポニーテール風に括っていて
茶色の服の上に赤いチェック模様の上着を着ていて
下には薄い桃色の長いスカートを履いている。
「かおるんは、絶対あたしを守ってくれるんだもん!!」


作者「いえーい、これでどうじゃーい」
薫「お前は、もう死んでいる」
作者「北斗の拳か、てめぇはぁぁぁぁぁ!!!!」
緑「あれ? レオさん達はしないの?」
作者「あぁ、あいつ等は次回に回す」
セレビィ「ビィ! ビィビィ!!」
薫「セレビィは?」
作者「出来ないんだよ、セレビィの場合は!!」
緑「え? どうして?」
作者「さて、それではトリビアに入りましょう」
薫「スルーするな」
作者「それでは最初のトリビア!」

 

薫と緑は本来スマデラ小説オリジナルキャラクターだった。

 

緑「へ〜! そうだったんだ!」
作者「スマデラ小説といっても仮想体験っぽい奴ッスよ〜」
薫「つまりプレイヤーがスマキャラになるって奴か?」
作者「イエェーーース!!」
緑「それぞれ何だったの?」
作者「マリオとリンク……ってぐはぁ!!
薫「セレビィ、ナイス」
セレビィ「ビィ〜♪」
作者「そ、ソーラービーム出すなぁ!!」
緑「ところでさトリビアってあれだけ?」
作者「まだ残ってるわい」

 

薫と唯が兄弟だって設定はつい最近ついた。

 

緑「へ〜! そーなんだ!」
作者「元々赤野が苗字だったんだよ、かおるんは」
薫「唯は?」
作者「前の設定では葉山一樹と葉山深雪っていう双子の兄&姉がいた」
薫「お前、そいつ等書くのが面倒だったんだろ……」
作者「イエェース!! ってぎゃぁ!!
薫「今度はギガドレインか。セレビィ、ナイス」
セレビィ「ビィ!」
作者「これじゃ、まだチームカルテットの方がマシだぁ……」
緑「これ以外には無いの?」
作者「あぁ、ありまっせ!!」

 

ニニ2号の看護婦帽子はニニの趣味

 

緑「……トリビア?」
薫「絶対違う」
作者「だよねぇ」
薫「セレビィ、GO!!」
セレビィ「ビィ!!」
作者「え、ちょ、止めてぇー!! ……って傷ついてねぇじゃんか」
薫「ちっ」
作者「舌打ちするな!!」
緑「それじゃ第二話の盗賊団、楽しみにしてくださいね〜」
作者「あぁ!? 台詞取られたぁーーー!!」

 

 

 

オマケ

黒焦げ作者「……」
薫「セレビィが使った技は未来予知だったのか」
セレビィ「ビビ〜♪」
緑「いきなり金タライが落ちて、その後勢い良く雷落ちてきたね」
薫「いや、さっきのは雷が落ちたというよりも……」
サーナイト「コろス!!
薫&緑「「って、お前かぁーーーー!!」」







まさか、チームカルテットと関係している、ナムカプの外伝的な小説とは予想外でした。
一つの小説にも登場した、重要キーワード『シギリア』を別路線で追求する感じでしょうか?

ノリが良いヨワマルのマヨが好きです。
恋恋さん、二本の同時連載くじけずにがんばってください。






・・・・あれ?だれかいるぞ

サーナイト「コろス!!

わーーーーーーー!!
恋恋さんトコのサーナイトがこっちにもきたーーーーー!